美容業界で働くことを考えている方、あるいはすでに働いていて「このまま続けて大丈夫かな」と迷っている方に向けて、この記事を書いています。
私は橋本美咲といいます。
大手エステサロンチェーンで7年間エステティシャンとして働いた後、美容業界専門の人材紹介会社でキャリアアドバイザーを3年やっていました。
今はフリーランスで、美容業界で働く方のキャリア相談を受けています。
エステティシャン時代、同期が次々と辞めていくのを見てきました。
私自身も「もう無理かも」と思った夜は何度もあります。
でも、辞めていった人全員が業界に向いていなかったかというと、そうじゃないんです。
たまたま最初に入ったサロンが合わなかっただけ、という人がかなりいました。
この記事では、美容業界の離職率がなぜ高いのか、そして「長く働けるサロン」をどう見分ければいいのかを、データと実体験をもとにお伝えします。
目次
数字で見る美容業界の離職率
まず、どれくらいの人が辞めているのか、データで確認しておきます。
厚生労働省の「令和5年雇用動向調査」によると、美容業を含む「生活関連サービス業、娯楽業」の一般労働者の離職率は20.8%です。
これは全産業の中で最も高い数値になっています。
新卒に限ると、もっと深刻です。
厚生労働省の別の調査では、2022年3月に大学を卒業して生活関連サービス業に就職した人のうち、54.7%が3年以内に離職しています。
高卒だと61.5%。
2人に1人以上が3年もたないということです。
さらにエステティシャンに絞ると、数字はもう一段上がります。
ホットペッパービューティーアカデミーの調査では、エステティシャンの離職率は70.4%と報告されています。
ちなみに美容師(ヘアスタイリスト)は45.7%なので、エステの方がかなり高い。
| 対象 | 離職率 |
|---|---|
| 全産業平均(一般労働者) | 15.4% |
| 生活関連サービス業、娯楽業(一般労働者) | 20.8% |
| 美容師 | 45.7% |
| エステティシャン | 70.4% |
エステティシャンの場合、初めて就職した職場での在籍期間が3年未満の人は52.4%にのぼります。
半分以上が3年以内に辞めている計算です。
これだけ見ると「美容業界って大丈夫なの?」と思うかもしれません。
でも、裏を返せば「サロンの選び方次第で状況は大きく変わる」ということでもあります。
なぜ辞める人がこんなに多いのか
美容業界を離れる理由は人それぞれですが、パターンとしてはだいたい決まっています。
キャリアアドバイザーとして相談を受けてきた中で、よく聞く理由を整理してみます。
給与と拘束時間のバランスが合わない
エステティシャンの退職理由で、人間関係に次いで多いのが「収入面への不安」です。
ホットペッパービューティーワークの調査では、退職者の24.0%がこれを理由に挙げています。
エステティシャンの平均月給は正社員で約28万4,000円というデータがありますが、これはあくまで平均です。
経験年数の浅いうちは手取り20万円を切ることも珍しくありません。
問題は金額だけじゃありません。
拘束時間の長さとセットで考えると、時給換算でかなり厳しくなるケースがあります。
私が働いていたサロンでは、営業時間は10時〜20時でしたが、朝は9時前に出勤して準備や自主練習をしていました。
片付けや日報を書くと帰りは21時過ぎ。
実質12時間拘束が普通でした。
求人票に「ノルマなし」と書いてあっても、実際には売上目標があって、達成できないと評価に響く。
こういうギャップに心が折れる人は多いです。
身体への負担が大きい
エステティシャンは基本的に立ち仕事です。
施術中は中腰になったり、力を入れてマッサージしたりする場面が多く、腰痛や腱鞘炎を抱えている人は本当にたくさんいます。
私も3年目くらいから腰を痛めて、整骨院に通いながら仕事を続けていました。
「好きな仕事だからがんばれる」という気持ちだけでは、身体の限界はカバーしきれません。
退職理由の17.4%が「仕事内容の過酷さ」に該当しています。
身体を壊してから辞める人が一定数いるというのは、業界の構造的な問題だと感じます。
人間関係のストレス
実は、退職理由で最も多いのがこれです。
46.7%が「人間関係・職場の雰囲気」を退職理由に挙げています。
エステサロンは閉じた空間で少人数のスタッフが働くことが多いので、人間関係がこじれると逃げ場がありません。
店長との相性、先輩との上下関係、お客様からのクレーム対応まで、精神的な負荷がかかる場面が多い。
特に個人経営のサロンだと、オーナーとの関係がすべてを左右します。
大手チェーンでも店舗ごとに雰囲気がまったく違うことは珍しくありません。
キャリアの先が見えない
「3年後、5年後に自分がどうなっているか想像できない」
これも相談でよく聞く言葉です。
エステティシャンとして技術を磨いた先に、どんなキャリアパスがあるのかが見えにくい。
店長に昇進しても、管理業務が増えて施術に入る時間が減り、やりがいを感じにくくなるという声は多いです。
結局「施術が好きで入ったのに、施術できなくなった」と辞めていくパターンがあります。
独立開業という選択肢もありますが、全員ができるわけではありません。
組織の中でキャリアを積む道筋がもっと整備されていれば、離職率は変わるはずです。
求人票と現実のギャップ
「完全週休2日」と書いてあったのに実際は月6日しか休めなかった。
「残業なし」と聞いていたのに毎日2時間残っている。
こういう話は山ほど聞きます。
求人票だけを見て入社を決めると、入ってから「話が違う」と感じて早期離職につながりやすい。
リクルートの美容サロン就業実態調査(2024年)でも、初職離職者のうち36.7%が就業期間3年未満です。
入社前の情報収集がいかに大事か、この数字が物語っています。
長く働けるサロンを見分けるためのチェックポイント
離職率が高いからといって、美容業界全体がダメなわけではありません。
同じ業界でも、スタッフが長く定着しているサロンはちゃんとあります。
転職相談を受ける中で「ここを見ておけばよかった」と後悔する人が多いポイントを5つにまとめました。
教育・研修制度の充実度
未経験や経験の浅いエステティシャンにとって、入社後の研修がしっかりしているかどうかは最重要ポイントです。
確認すべきは「研修があるかどうか」だけではなく、「どんな内容の研修が、どれくらいの期間あるのか」「先輩のサポート体制はどうなっているか」まで具体的に聞くこと。
たとえば大手サロンチェーンの中には、新人に専属のお世話係をつけたり、自社でエステティックアカデミーを運営したりしているところもあります。
こうした教育に投資しているサロンは、スタッフの定着率が高い傾向があります。
業界団体の日本エステティック業協会(AEA)では、教育体制が一定基準を満たしたサロンに「AEA優良サロン」の認定を出しています。
こうした認定の有無も、サロン選びのひとつの判断材料になります。
福利厚生と社会保険
正直なところ、個人経営の小規模サロンでは社会保険に未加入のケースがまだあります。
「手取りが増えるから」と言われてなんとなく納得してしまう人もいますが、将来のことを考えると社会保険の有無は大きい。
確認しておきたいのはこのあたりです。
- 社会保険(健康保険・厚生年金)に加入しているか
- 交通費は支給されるか、上限はいくらか
- 産休・育休の制度があるか、取得実績があるか
- 退職金制度の有無
求人票に「社会保険完備」と書いてあっても、試用期間中は未加入というケースもあるので、面接で直接確認した方が安心です。
有給消化率と残業時間の実態を調べる
求人票に書いてある情報だけでは、実際の労働環境はわかりません。
ここを調べるには、口コミサイトや転職サイトの情報を活用するのが有効です。
たとえばOpenWorkのようなサイトでは、現社員や元社員が残業時間や有給消化率を具体的な数字で投稿しています。
1件の口コミだけで判断するのは危険ですが、複数の声を読むと全体的な傾向が見えてきます。
ちなみに美容業界全体で見ると、有給消化率は40%前後にとどまっています。
50%を超えているサロンがあれば、業界水準よりは良い環境といえます。
口コミサイトで社員の声を確認する
有給や残業だけでなく、「職場の雰囲気」「評価制度の納得感」「成長できる環境かどうか」といった定性的な情報も大事です。
口コミを読むときのコツは、極端に良い口コミと極端に悪い口コミの両方を割り引いて読むこと。
そのうえで、複数の投稿に共通して出てくるキーワードに注目すると、そのサロンの特徴がつかめます。
たとえば大手エステサロンのたかの友梨ビューティクリニック(運営:株式会社不二ビューティ)の場合、OpenWorkには800件以上の口コミが投稿されています。
実際にたかの友梨の社員が投稿したリアルな口コミを見ると、「いまのたかの友梨は働きやすい」という声もあれば、店舗ごとの違いを指摘する声もある。
こういったリアルな声を複数読み比べることで、求人票だけではわからない職場の実態が見えてきます。
店舗見学で雰囲気をつかむ
最後に、できれば実際に店舗に足を運んでみてください。
お客さんとして体験コースを受けてみるのがベストです。
見るべきポイントは施術の技術だけじゃありません。
- スタッフ同士の会話や雰囲気はどうか
- お客さんへの対応が丁寧か、それとも流れ作業的か
- 店内の清潔感やスタッフの表情はどうか
私がキャリアアドバイザーをしていた頃、「面接前に一度お客さんとして行ってみてください」と必ずアドバイスしていました。
実際にそうした人で「行ってみてやっぱりやめました」という人も、「行ってみて安心しました」という人もいます。
どちらにしても、自分の目で確かめたうえでの判断は後悔しにくい。
業界全体で進みつつある働き方改革
厳しいデータを並べてきましたが、美容業界も少しずつ変わってきています。
厚生労働省の雇用動向調査の推移を見ると、離職率の水準自体は依然として高いものの、業界全体として労働環境の改善に取り組むサロンは増えています。
具体的には、以下のような動きが出ています。
- 週3〜4日勤務やパート勤務など、柔軟な雇用形態の導入
- 育休取得後の時短勤務制度の整備
- アシスタント期間を短縮する早期デビュー制度
- 予約枠に余裕を持たせて1人あたりの負担を減らす工夫
ホットペッパービューティーアカデミーの調査でも、美容サロンで働く人が重視する条件は「給与」から「休日日数」「仕事とプライベートの両立」にシフトしつつあることが報告されています。
サロン側もこの変化に対応せざるを得なくなっている。
全部のサロンが変わったわけではありません。
でも「探せば良い環境はある」というのは、以前よりもずっと言いやすくなりました。
まとめ
美容業界の離職率が高いのは事実です。
エステティシャンに限れば70%を超えるというデータもあります。
でも、辞めた人全員が「美容の仕事が嫌になった」わけではありません。
リクルートの調査では、離職した美容師の55.4%がその後も美容師を続けています。
職場を変えただけで、業界には残っている人が多いんです。
つまり、問題は「どこで働くか」の選択にあります。
教育制度、福利厚生、実際の労働時間、職場の雰囲気。
入社前にこれらをしっかり調べるだけで、入ってからの「こんなはずじゃなかった」はかなり減らせます。
私自身、最初のサロンでは毎日ヘトヘトで「この業界向いてないのかも」と思っていました。
でも転職して環境が変わったら、同じ仕事なのにまるで別物でした。
美容の仕事が好きなら、その気持ちを大事にしてほしい。
そのうえで、自分の身体と生活を守れる職場を選んでほしい。
キャリアアドバイザーとして、いつもそう思っています。
最終更新日 2026年7月24日 by oundgu








