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デイサービスで栄養ケアを担当していたころ、夏になると必ず同じ相談を受けました。
「うちの母、水をぜんぜん飲んでくれないんです」。

管理栄養士の宮下と申します。
特別養護老人ホームの給食部門に12年、そのあとデイサービスで5年、高齢の方の食事と水分をみてきました。

正直に書きますと、私も78歳の母には手を焼いています。
麦茶を出しても、口をつけないままテーブルに置きっぱなし。

ただ、現場で何十人と接してきて分かったことがあります。
「飲んでね」を繰り返すより先に、やることがあるんです。

「飲みたくない」の裏には、たいてい理由があります

理由を聞いていくと、だいたい次のどれかに行き着きました。

  • トイレが近くなるのが嫌
  • 夜中に起きて転ぶのが怖い
  • むせるので、飲むこと自体がしんどい
  • そもそも、のどが渇いていない
  • 家族に何度も手伝わせるのが申し訳ない

後ろの2つは、本人の口からはなかなか出てきません。

なかでも「のどが渇いていない」は、わがままではなく体の変化です。
環境省の熱中症環境保健マニュアルには、高齢者は脱水が進んでものどの渇きが起こりにくく、それは脳での察知能力が低下するために起こる、と書かれています。
体にためておける水分そのものも減っていて、体重に対する水分量は成人男性の約60%に対し、高齢者では50〜55%とされています。

飲まないのではなく、渇きの信号が届いていない。
厚生労働省が2024年8月に出した事務連絡でも、高齢者向けにはわざわざ「のどが渇かなくても、早め早めに水分や塩分を補給しましょう」と呼びかけを分けています。

良かれと思って出した一杯が、水分になっていないことも

家族から相談を受けていて意外に多かったのが、中身のほうの話です。

飲み物どう考えるか
お酒補給にはなりません。環境省は「どのような種類の酒であっても」尿の量を増やす、とはっきり書いています
甘いジュース、清涼飲料糖分が多く、毎日の水分の柱にするには向きません
お茶、コーヒーふだん飲む量なら、神経質にならなくて大丈夫です

3つめは意外に思われるかもしれません。
カフェインは水分補給にならない、という話は広く出回っていますが、環境省のマニュアルは通常の水分補給の例として、お茶を挙げています。
親が何十年も飲んできたお茶を取り上げて、口にする量そのものが減ってしまっては元も子もありません。

飲み物ごとの向き不向きについては、水分補給にならない飲み物までまとめられたページが分かりやすく整理しています。

ちなみに、飲料として摂りたい量は1日あたり1.2リットルが目安とされています(食事に含まれる水分は別勘定です)。
コップにすると6杯ほど。一度に飲む量ではありません。

無理にすすめる前に、私が試していたこと

飲ませる工夫を足すより、飲まない理由を先に減らすほうが早い。
これが現場での実感です。

  • トイレは付き添うと先に伝えておく(不安が消えると飲む量が変わります)
  • コップを小さいものに替える(残すのが申し訳ない、という気持ちが減ります)
  • 食事から入れる(みそ汁、果物、ゼリー。環境省も食事からの水分補給に触れています)
  • 本人が好きな一杯を、手の届くところに置いておく

母に効いたのは3つめでした。
水は飲まないのに、具だくさんのみそ汁なら最後まで飲み干します。

夏場は麦茶をゼリーにして冷やしておくと、むせが気になる方でもわりと口にしてくれました。
飲むより食べるほうが楽、という日もあるんです。

まとめ

親が水を飲まないと、どうしても「飲んで」と言いたくなります。
ただ、その一言で飲むようになった方を、私は現場でほとんど見ていません。

先に理由を聞く。
それから、飲み方のほうを変える。

遠回りに見えますが、こちらのほうが続きます。
今日いきなり1.2リットルを目指さなくても大丈夫です。コップ1杯増えた日を、まず喜んでください。

最終更新日 2026年9月4日 by oundgu

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