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「接着剤の糸引きが止まらない…」
「グリースの吐出量が安定せず、製品の品質にばらつきが出る…」
「シール剤の塗布に時間がかかりすぎて、生産性が上がらない…」

製造現場において、高粘度液体の塗布は製品の品質と生産性を左右する重要な工程です。しかし、その扱いの難しさから、多くの課題を抱えている現場も少なくありません。

この記事では、生産技術者や設備導入担当者の皆様に向けて、高粘度液体の塗布における課題を解決するための工業用ディスペンサーに焦点を当てます。
高粘度液体の塗布に強いディスペンサーの種類から、自社に最適な一台を選ぶための具体的な選定基準、さらには主要メーカーのおすすめ機種まで、網羅的に解説します。

この記事を読めば、高粘度液体の塗布に関する課題が明確になり、品質向上と生産性向上を実現するための最適なディスペンサー選定が可能になります。

目次

高粘度液体とは?製造現場でよくある塗布の課題

まず、「高粘度液体」とは具体的にどのようなものを指すのでしょうか。
工業分野で用いられる高粘度液体には、多種多様なものがあります。その粘度は、マヨネーズやハチミツのような身近なものから、さらに粘り気の強い水あめのようなものまで様々です。

▼主な高粘度液体と用途の例

  • 接着剤: エポキシ樹脂、シリコーン系接着剤、UV硬化型接着剤など。電子部品の固定や自動車部品の組み立てに使用されます。
  • シール剤(シーラント): 液状ガスケット(FIPG)、防水・防湿用のシール材など。エンジン部品の密閉や電子機器の防水処理に不可欠です。
  • ポッティング剤: ウレタン樹脂、エポキシ樹脂など。電子基板を湿気や衝撃から保護するために充填されます。
  • グリース・潤滑油: 自動車のベアリングや機械の摺動部に塗布され、摩耗を防ぎます。
  • はんだペースト: 電子基板に部品を実装(はんだ付け)する際に使用される、はんだ粉末とフラックスの混合物です。

これらの液体は、製品に特定の機能(接着、シール、絶縁、潤滑など)を付与する上で極めて重要な役割を果たしますが、その高い粘性に起因する特有の塗布課題が存在します。

なぜ難しい?高粘度液体の塗布で起こるトラブルの原因

高粘度液体は、水のような低粘度の液体と異なり、流れにくく、形状を保ちやすい性質を持っています。この性質が、製造現場で様々な塗布トラブルを引き起こす原因となります。

課題1:糸引き・タレによる汚染や外観不良

高粘度液体は粘り気が強いため、ノズルから離れる際に尾を引く「糸引き」や、塗布後に液の重みで形状が崩れる「タレ」が発生しやすくなります。
これらの現象は、製品の意図しない部分を汚してしまったり、外観品質を損ねたりする原因となります。特に、精密な電子部品やデザイン性が求められる製品においては、致命的な不良につながることも少なくありません。

課題2:吐出量のばらつきによる品質不安定

一般的なエア圧送式(タイムプレッシャー方式)のディスペンサーでは、液体の粘度変化やシリンジ内の液剤残量の変化(水頭差)によって、吐出量が変動しやすいという課題があります。
高粘度液体は温度によっても粘度が大きく変化するため、朝と昼の室温の違いだけでも吐出量が変わり、製品の接着強度やシール性能が不安定になる可能性があります。

課題3:気泡の混入(ボイド)による接着不良や性能低下

高粘度液体は、一度気泡が混入すると抜けにくい性質があります。
材料の攪拌時や容器への充填時に巻き込まれた気泡が塗布時に混入(ボイド)すると、接着強度の低下、絶縁不良、シール漏れなど、製品の性能を著しく損なう原因となります。

課題4:タクトタイムの長期化による生産性の低下

粘性が高い液体は、細いノズルからの吐出に大きな力が必要であり、吐出速度を上げにくい傾向があります。
そのため、塗布工程に時間がかかり、生産ライン全体のタクトタイムを長期化させるボトルネックになりがちです。特に、接触式のディスペンサーでは、Z軸の上下動も加わるため、さらに時間がかかります。

高粘度液体の塗布に強いディスペンサーの種類と特徴

前述のような課題を解決するため、高粘度液体の塗布には専用のディスペンサーが用いられます。ここでは、代表的な3つの方式について、その原理と特徴を解説します。

容積計量式|液体の物性に影響されにくい高精度塗布の王道

容積計量式は、ポンプやプランジャーなど機械的な仕組みによって一定の体積を正確に計量し、押し出す方式です。 液体の粘度変化や圧力変動の影響を受けにくく、極めて高い定量安定性を誇ります。

スクリューディスペンサー(モーノ式)

スクリューディスペンサーは、らせん状のネジ(ローター)と特殊な形状のゴム(ステーター)を組み合わせた「一軸偏心ねじポンプ」の原理を利用しています。
モーターでスクリューを回転させることで、液体を連続的かつ脈動なく送り出します。

  • メリット:
    • 100万mPa·sを超える超高粘度液体や、フィラー(粒子)入りの材料にも対応可能。
    • 回転数に比例して吐出量を制御できるため、流量調整が容易。
    • 液切れが良く、糸引きを抑制できるサックバック機能(瞬時逆回転)を持つ機種が多い。
  • デメリット:
    • 構造が複雑なため、分解・洗浄に手間がかかる場合がある。
    • 摩耗性の高いフィラーを含む液体の場合、スクリューやステーターが摩耗し、定期的な交換が必要になる。

兵神装備の「モーノディスペンサー」などがこの方式の代表例です。

プランジャーポンプ式ディスペンサー

プランジャーポンプ式は、注射器のようにシリンダー内のピストン(プランジャー)をモーターで正確に往復運動させ、液体を吸入・吐出する方式です。
プランジャーの移動量を精密に制御することで、マイクロリットル単位の超微量吐出から大容量吐出まで、高い精度で実現します。

  • メリット:
    • 吐出量の再現性が非常に高く、精密な塗布が求められる用途に適している。
    • 液体の圧縮性が低い場合、粘度の影響をほとんど受けない。
  • デメリット:
    • 構造上、連続的な吐出はできず、間欠的な吐出となる。
    • フィラー入りの材料の場合、プランジャーやシールの摩耗が懸念される。

非接触式|高速・精密塗布を実現するジェットディスペンサー

ジェットディスペンサーは、ノズルをワーク(対象物)に接触させることなく、液体を弾丸のように高速で射出して塗布する方式です。 ピエゾ素子やエア圧を利用して液体に瞬間的な圧力をかけ、微小な液滴を飛ばします。

  • メリット:
    • Z軸の上下動が不要なため、圧倒的な高速塗布(タクトタイム短縮)が可能。
    • ノズルが入らない狭い隙間や、段差・凹凸のあるワークにも塗布できる。
    • 非接触なので、ワークやノズルの損傷リスクがない。
  • デメリット:
    • 液体の粘度や表面張力によっては、吐出が不安定になったり、サテライト(飛散)が発生したりすることがある。
    • 接触式に比べて設備が高価になる傾向がある。

従来は低~中粘度液体が主流でしたが、近年では技術開発が進み、武蔵エンジニアリングの「SuperHiJet」のように1,000,000mPa・sを超える高粘度液体に対応したモデルも登場しています。

【方式別】特徴比較サマリー表

方式吐出原理メリットデメリット主な用途
スクリュー式スクリューの回転で液体を連続的に押し出す超高粘度・フィラー入り対応、流量制御が容易、脈動がない構造が複雑、摩耗部品の定期交換が必要液状ガスケット、アンダーフィル剤、はんだペースト、放熱グリース
プランジャー式ピストンの往復運動で一定量を吸入・吐出高い定量再現性、微量吐出が得意、粘度影響が少ない間欠吐出、連続塗布には不向き、フィラーに弱い精密部品への接着剤塗布、医療用試薬の分注
ジェット式液体を高速で射出し、非接触で塗布圧倒的な高速性、狭小部・段差部への塗布が可能液体物性の制約、サテライト発生の可能性、比較的高価スマートフォン部品、LED封止、電子基板の防湿コーティング

【失敗しない】高粘度対応ディスペンサーの選定基準5つのポイント

自社の製品や生産ラインに最適なディスペンサーを選ぶためには、何を基準に比較検討すればよいのでしょうか。ここでは、失敗しないための5つの選定ポイントを解説します。

ポイント1:液体の粘度と特性を正確に把握する

まず最も重要なのが、使用する液体の正確な情報を把握することです。

  • 粘度(mPa·s or Pa·s): カタログスペックだけで判断せず、実際に使用する温度条件下での粘度を確認することが重要です。
  • チクソ性: 力を加えると粘度が下がり、静置すると元に戻る性質。塗布時と静置時で挙動が変わるため、ディスペンサーの選定に大きく影響します。
  • フィラーの有無・種類・含有量: 研磨性の高いフィラーが含まれている場合、耐摩耗性の高い部品を使用したディスペンサーを選ぶ必要があります。
  • 硬化条件: 1液性か2液性か、熱硬化かUV硬化かなど、硬化メカニズムによっても最適なシステム構成は異なります。

ポイント2:要求される塗布精度と再現性を明確にする

「高精度に塗布したい」という要望はどの現場にもありますが、その「精度」を定量的に定義することが重要です。

  • 吐出量精度: 目標吐出量に対して、どの程度のばらつき(例:±1%以内、±3%以内)が許容されるか。
  • 塗布位置精度: 狙った位置に対して、どの程度のズレ(例:±0.1mm以内)が許容されるか。
  • 塗布形状: 点塗布、線塗布、面塗布など、どのような形状で塗布する必要があるか。 線の太さや点の径なども具体的に決めます。

これらの要求仕様によって、選ぶべきディスペンサーの方式やグレードが大きく変わってきます。

ポイント3:生産性(タクトタイムと段取り時間)を考慮する

ディスペンサーの導入は、多くの場合、生産性向上が目的の一つです。

  • タクトタイム: 1製品あたりにかけられる塗布時間は何秒か。高速性が求められる場合は、ジェットディスペンサーが有力な候補となります。
  • 段取り時間: 液剤の交換や洗浄、メンテナンスにかかる時間も考慮しましょう。品種切り替えが多い生産ラインでは、洗浄が容易な構造のディスペンサーが有利です。

ポイント4:メンテナンス性と耐久性を確認する

安定した生産を維持するためには、メンテナンス性と耐久性も欠かせない要素です。

  • 消耗部品: 定期的な交換が必要な部品(ノズル、スクリュー、ステーター、シール材など)は何か。
  • 交換の容易さ: 部品交換や日常的な洗浄が、現場の作業者でも簡単に行える構造になっているか。
  • 耐久性: 特に摩耗性の高い材料を使用する場合、メーカーの耐久試験データや実績を確認することが推奨されます。

ポイント5:導入後のサポート体制とテスト環境

高価な設備だからこそ、メーカーのサポート体制は重要です。

  • テスト・デモ: 導入前に、自社で使う実際の液体とワークを使って塗布テストができるか。多くのメーカーはテストルームを設けており、最適な機種や条件出しをサポートしてくれます。
  • アフターサービス: 導入後のトラブル対応や、定期的なメンテナンス、操作トレーニングなどのサポート体制が充実しているかを確認しましょう。

【メーカー別】高粘度対応!おすすめ工業用ディスペンサーシリーズ

ここでは、高粘度液体の塗布に定評のある国内の主要ディスペンサーメーカーと、その代表的な製品シリーズをご紹介します。

武蔵エンジニアリング株式会社:ディスペンサー業界のリーディングカンパニー

液体精密制御装置の総合メーカーとして、国内トップシェアを誇ります。 豊富な製品ラインナップと高い技術力で、あらゆる塗布ニーズに対応しています。

  • 高粘度対応シリーズ例:
    • SuperHiJet: 1,000,000mPa・sまでの高粘度液体に対応する非接触ジェットディスペンサー。 高速性と精密性を両立します。
    • SCREW MASTER® 3: 推進力に優れたスクリュー方式で、フィラー入りの高粘度材料を詰まりなく安定吐出します。
    • MPP-5: 独自のプランジャーポンプ方式を採用し、驚異的な定量安定性を実現する容積計量式ディスペンサーです。

兵神装備株式会社:モーノポンプ技術を応用した高精度ディスペンサー

産業用ポンプ「モーノポンプ」で長年の実績を持つメーカーです。 そのコア技術である一軸偏心ねじポンプを応用した「モーノディスペンサー」は、高粘度・高精度塗布の分野で高い評価を得ています。

  • 高粘度対応シリーズ例:
    • モーノディスペンサー: 100万mPa・sの高粘度液やスラリーでも脈動なく高精度に吐出。 自動車、電子部品、食品、化粧品など幅広い業界で採用実績があります。 ND型、HD型など、用途に応じた様々なモデルをラインナップしています。

株式会社サンエイテック:多彩な製品ラインナップとソリューション力

国内外の優れた液体制御機器を取り扱う専門商社でありながら、メーカー機能も併せ持ち、顧客の課題に合わせた最適なソリューションを提供しています。

  • 高粘度対応シリーズ例:
    • preeflow® eco-PEN: ドイツviscotec社製の容積移送式マイクロディスペンサー。エンドレスピストン原理により、超高粘度液剤でも±1%という高い精度で脈動のない連続吐出を実現します。
    • BEATRUM-H: 最大30万mPa・sの液剤に対応したハイインパクトタイプのジェットディスペンサー。 メンテナンス性の高さも特徴です。
    • 高粘度材対応コーティングバルブ SV01シリーズ: 30,000mPa・s程度までの高粘度液剤を、飛散を抑えてスプレー塗布できる特殊バルブです。

ディスペンサー導入による改善事例

最後に、実際に高粘度対応ディスペンサーを導入することで、どのような改善が実現できるのか、具体的な事例を見てみましょう。

事例1:自動車部品への液状ガスケット(FIPG)塗布

  • 課題: エア圧送式ディスペンサーを使用していたが、吐出量が安定せず、ガスケットの塗布幅にばらつきが発生。シール不良によるオイル漏れのリスクがあった。
  • 導入後の成果:
    • スクリュー式ディスペンサー(モーノディスペンサー)を導入。
    • 液体の粘度変化に影響されず、常に一定幅での塗布が可能になり、シール品質が大幅に向上。
    • ロボットの速度に追従して吐出量を制御できるため、コーナー部でも均一な塗布が実現し、タクトタイムも短縮された。

事例2:スマートフォン部品へのUV硬化型接着剤の塗布

  • 課題: 部品が微細化・高密度化し、従来の手作業や接触式ディスペンサーでは、はみ出しや塗布位置ズレが多発。生産性が上がらなかった。
  • 導入後の成果:
    • 高粘度対応のジェットディスペンサーを導入。
    • 非接触で狙った位置に微小量を高速塗布できるため、はみ出しや位置ズレが解消。
    • Z軸の上下動がなくなったことでタクトタイムが1/2以下になり、生産性が飛躍的に向上した。

まとめ:最適なディスペンサー選びで品質と生産性を向上

高粘度液体の安定した精密塗布は、多くの製造現場にとって重要な課題です。しかし、その課題は、液体の特性と生産条件に合った最適なディスペンサーを選定することで解決できます。

本記事で解説したポイントを再確認しましょう。

  • 高粘度液体の塗布課題: 糸引き・タレ、吐出量のばらつき、気泡混入、タクトタイム長期化。
  • 代表的なディスペンサー方式: 高精度な「容積計量式(スクリュー、プランジャー)」と高速な「非接触式(ジェット)」。
  • 選定の5つのポイント: ①液体特性の把握、②要求精度の明確化、③生産性、④メンテナンス性、⑤サポート体制。

まずは自社の課題を明確にし、使用する液体の特性を正確に把握することから始めましょう。そして、各ディスペンサーメーカーが提供するテストやデモを積極的に活用し、実際の液体・ワークで性能を評価することが、最適な一台を見つけるための最も確実な方法です。
適切なディスペンサーの導入は、不良率の低減、製品品質の向上、そして生産性の飛躍的な向上に直結します。この記事が、そのための第一歩となれば幸いです。

最終更新日 2025年12月4日 by oundgu

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