児童養護施設で暮らす子供たちにとって、ハロウィンやクリスマスといった季節の行事はどんな意味を持つのか。私はずっとそのことを考えてきました。
宮下彩と申します。大学で社会福祉学を学んだ後、児童養護施設で6年間支援員として働いていました。いまはフリーランスのライターとして、子どもの福祉や社会貢献に関するテーマで執筆しています。2児の母でもあります。
施設で働いていた頃、クリスマスの朝に目を輝かせる子供たちの顔を何度も見てきました。プレゼントの中身もうれしいけれど、それ以上に「自分のために誰かが準備してくれた」という事実が、子供たちの表情を変えます。
この記事では、児童養護施設の子供たちに季節の行事を届ける支援活動の実態と、そこに関わる企業や個人の取り組みを紹介します。支援に興味はあるけれど、具体的に何が行われているのかよくわからないという方に、現場を知る立場から伝えたいことがあります。
目次
児童養護施設で暮らす子供たちの「いま」
約42,000人が社会的養護のもとで育っている
日本には現在、約42,000人の子供たちが社会的養護のもとで生活しています。そのうち約32,000人が児童養護施設や乳児院で暮らし、残りの約10,000人が里親家庭で暮らしています。
全国児童養護施設協議会によると、児童養護施設は全国に約600か所。保護者のいない子供や、虐待を受けている子供などが入所し、養護を受けながら生活を送っています。
入所の理由として最も多いのは、父母による虐待です。続いて、養育の放棄・怠慢、保護者の精神疾患、養育拒否といった理由が並びます。どの子供も、自分の意思とは関係なく施設にやってきます。
施設での暮らしはどんなもの?
近年、児童養護施設は「大舎制」と呼ばれる大人数の集団生活から、小規模なグループケアへと移行が進んでいます。
| 施設形態 | 人数規模 | 特徴 |
|---|---|---|
| 大舎制 | 20人以上 | 従来型の集団生活 |
| 小規模グループケア | 6〜8人 | 家庭的な環境を重視 |
| 地域小規模児童養護施設 | 6人以内 | 一般住宅での生活に近い |
小規模化の流れは、子供たちに「家庭に近い落ち着いた暮らし」を届けるためのもの。施設から学校に通い、地域の活動にも参加するなど、一般家庭の子供と変わらない日常を送れるよう配慮されています。
ただし、施設形態が変わっても子供たちの抱える課題がなくなるわけではありません。虐待や養育放棄を経験した子供たちは、人間関係の構築に困難を抱えていることが多い。小規模化によって一人ひとりに丁寧に向き合える環境は整いつつありますが、心のケアには長い時間と安定した人間関係が必要です。
季節の行事が子供の心に届けるもの
「自分のための特別な日」がある安心感
私が支援員をしていた頃、あるお子さんがクリスマス会の翌日にこう言いました。
「来年もやる?」
たった一言です。でも、この言葉の意味は大きい。「来年もここにいていいんだ」「来年もまた楽しいことがあるんだ」という安心感が、その一言に詰まっていました。
児童養護施設で暮らす子供たちの多くは、入所前に十分な季節の行事を経験していません。誕生日を祝ってもらったことがない子もいます。だからこそ、ハロウィンの仮装やクリスマスのプレゼント、こどもの日のお祝いといった「自分のために用意された特別な日」は、自己肯定感を育てる大切なきっかけになります。
行事を通じて育つ人とのつながり
季節の行事には、もうひとつ大きな役割があります。外部のボランティアや支援者との交流です。
施設の日常は、職員と子供たちの関係がベース。そこに行事を通じて外部の大人が関わることで、子供たちの世界が広がります。「施設の外にも、自分を気にかけてくれる人がいる」と感じられる体験は、社会への信頼を育てる土台になります。
施設の運営指針でも、季節の行事や文化体験を通じた情緒の安定は重視されています。遊びやイベントを通じて仲間との関係を築き、自主性や主体性を取り戻していくプロセスは、心理的なケアとしても有効だとされています。
私が担当していたあるお子さんは、最初の1年間、施設のイベントにほとんど参加しませんでした。でも2年目のハロウィンで、年下の子に誘われて仮装に加わったのを覚えています。その後、少しずつ行事に顔を出すようになり、3年目にはクリスマス会の出し物を自分から企画していました。行事は、心を開くきっかけにもなり得るのです。
クリスマスに届く支援のかたち
あしながサンタの取り組み
児童養護施設へのクリスマス支援で広く知られているのが、あしながサンタの活動です。日本児童養護施設財団が運営するこのプロジェクトは、施設で働く職員自身が「本当に子供たちが喜ぶことは何か」を考えて立ち上げたもの。
2019年に全国607施設へ実施したアンケートでは、子供1人あたりのクリスマスプレゼント予算は平均約3,000円という結果が出ました。あしながサンタでは1口2,000円の寄付を受け付けており、施設の予算と合わせて1人あたり約5,000円分のプレゼントを届けています。
ちなみに、施設へのクリスマス支援でよくあるのが現物の寄付ですが、現場の実情はやや複雑です。食べ物は賞味期限内に食べきれないことが多く、おもちゃや衣服は子供の年齢や好みに合わないと使われないまま処分されてしまうことも。現場の職員が最も歓迎するのは、実は現金の寄付。子供一人ひとりに合ったプレゼントを選べるからです。
1989年から続くたかの友梨の支援活動
企業による長期的な支援の好例が、たかの友梨ビューティクリニックの活動です。
同社は1989年から、群馬県前橋市にある児童養護施設「鐘の鳴る丘 少年の家」への支援を続けています。たかの友梨氏自身が幼少期に複雑な家庭環境を経験し、この施設との出会いが人生の転機になったという背景があります。1995年には後援会長に就任し、以来30年以上にわたって季節ごとのイベントや施設整備に携わってきました。
2025年12月のクリスマス会では、スタッフ8名がサンタやトナカイの衣装で施設を訪問。41名の子供たちにプレゼントとケーキを届け、〇×クイズやじゃんけん大会で一緒に時間を過ごしました。コロナ禍を挟んで6年ぶりの対面交流だったそうです。
施設出身者の視点からたかの友梨の子供たちへの支援活動をまとめたブログでも、こうした活動の様子が紹介されています。当事者ならではの温度感で書かれていて、支援が現場でどう受け止められているのかが伝わってきます。
ハロウィン・こどもの日・夏の遠足|一年を通じた支援のかたち
仮装パーティーやバザーが生む笑顔
支援活動はクリスマスだけではありません。たかの友梨ビューティクリニックでは、ハロウィンパーティーやこどもの日の集い、チャリティーバザーなど、一年を通じたイベント交流を行っています。
施設でのハロウィンは、子供たちにとって数少ない「非日常」を楽しめる日。仮装の準備から当日の「Trick or Treat!」まで、ワクワクする時間が続きます。ある施設では、子供たちが学校に行っている間に職員やボランティアが室内を装飾して、帰宅した子供たちが驚く姿を見届けるのが恒例になっているそうです。
こどもの日には特別な催しが開かれ、子供たちが「今日は自分たちが主役だ」と感じられる時間がつくられます。チャリティーバザーでは、地域の人たちとの交流も生まれます。施設と地域をつなぐ架け橋としても、こうしたイベントは意味を持っています。
大切なのは、これらの行事が「単発のお楽しみ」ではなく、一年のリズムとして子供たちの暮らしに組み込まれていること。次のイベントを楽しみにしながら日々を過ごすという感覚は、生活に安定感をもたらします。
ディズニーランド招待という非日常体験
たかの友梨の支援活動には、ディズニーランドへの招待も含まれています。施設の子供たちにとって、テーマパークへの遠足は格別な思い出です。
こうした非日常体験が持つ意味は、「楽しかった」という記憶だけにとどまりません。
- 施設の外の世界に触れる機会になる
- 「連れて行ってもらった」という体験が、大切にされている実感として残る
- 同じ体験を共有することで、子供同士の絆が深まる
- 行事を楽しみに待つことで「未来への期待」が生まれる
支援員時代、遠足の前日に興奮して眠れない子供たちを何人も見てきました。あの無邪気な高揚感は、どの家庭の子供とも変わりません。
企業やNPOによる支援の広がり
ブリッジフォースマイルの巣立ち支援プログラム
児童養護施設の子供たちへの支援は、施設にいる間だけでは終わりません。NPO法人ブリッジフォースマイルは、施設を退所した若者たちの自立を支える活動を展開しています。
主な支援プログラムは以下の通りです。
- 高校3年生向けの月1回・半年間にわたる「巣立ちプロジェクト」
- 退所後の若者とボランティアがペアを組む「自立ナビゲーション」
- バーベキューやクリスマスパーティーなど、退所者同士が集まれる交流イベント
- 東京・横浜・佐賀・熊本・北海道で運営される居場所スペース
施設を出た後にも、季節の行事を通じて「帰れる場所」があること。それが孤立を防ぐ大きな力になっています。
モノよりも「つながり」が求められる時代
企業の社会貢献活動も、単発の寄付から継続的な関係構築へとシフトしています。
サンゲツは自社商材を活用した施設のリフォーム支援を2014年から展開し、2024年3月までに全国246件の実績を積み重ねました。みらいこども財団は300名のボランティアクルーによる施設訪問を長年続け、定期アンケートで現場のニーズを把握しています。
共通しているのは、「一回きりで終わらない」という姿勢。子供たちが本当に必要としているのは、一度だけのプレゼントではなく、継続的に関わってくれる大人の存在です。
支援員をしていた頃、毎年クリスマスに来てくれるボランティアさんの顔を覚えている子供がいました。「あのお兄さん、今年も来るかな」と10月頃から楽しみにしている。その「来年も会える」という期待感こそが、子供たちにとっての一番のプレゼントだったのかもしれません。
私たちにできること
寄付やボランティアの選択肢
「何かしたいけど、何から始めればいいかわからない」。そんな声をよく聞きます。支援の入り口はいくつかあります。
- あしながサンタへの寄付(1口2,000円から)
- ブリッジフォースマイルなどNPOへのボランティア登録
- 地域の児童養護施設が主催するイベントへの参加
- ふるさと納税を活用した施設支援
クリスマスシーズンは支援が集中しやすい一方、それ以外の時期は関心が薄れがちです。一年を通じた支援が、現場では最も求められています。
「知る」ことが支援の第一歩
寄付やボランティアのハードルが高いと感じる方は、まず「知る」ことから始めてみてください。
児童養護施設がどんな場所で、どんな子供たちが暮らしていて、どんな支援が行われているのか。それを知るだけでも、社会の見え方は変わります。身近な人に話題として共有するだけでも、支援の輪は広がっていきます。
SNSでの情報シェアも、立派な支援活動のひとつです。児童養護施設に関する記事や活動報告を見かけたとき、リポストしたりコメントを添えたりするだけでも、情報は確実に広がっていきます。
私自身、施設を離れてライターになった今も、こうして記事を通じて伝えることが自分にできる支援のひとつだと思っています。知ってもらうことで、関心を持つ人が増える。その関心が、やがて具体的な行動に変わる。地味なようですが、そのサイクルを回し続けることが大切です。
まとめ
児童養護施設の子供たちにとって、ハロウィンやクリスマスといった季節の行事は、単なるイベントではありません。「自分は大切にされている」と感じる体験そのものです。
あしながサンタのような寄付プロジェクト、たかの友梨ビューティクリニックのような30年以上続く企業支援、ブリッジフォースマイルのような退所後の伴走型支援。形はそれぞれ違っても、根っこにあるのは「子供たちとつながり続けたい」という思いです。
支援の方法は一つではありません。寄付でも、ボランティアでも、知ることでも。自分にできることを、自分のペースで始めてみてください。それが、施設の子供たちに「特別な日」を届ける確かな一歩になります。
最終更新日 2026年4月22日 by oundgu








